現役薬剤師が解説 不眠症治療薬について

現役の薬剤師さんからの投稿です。私は普段薬局で働いており、日々様々な患者様と接する機会があります。その中でも不眠症で悩まれている方は年齢層関係なくかなりの数いらっしゃるので、不眠症の深刻さは実感できています。

我々薬剤師の仕事は多くの薬について勉強し患者様が安心して薬を飲めるような情報提供をしていくことで、それによって1人でも多くの方が悩みから解放されることを目標としています。

今回の記事で睡眠導入剤について何か知ることができた、疑問を解消することができたなど少しでも影響を受けてくださる方が増えれば幸いです。

目次

  1. 患者様が安心して薬を飲めるような情報提供を
  2. 作用時間別睡眠導入剤の紹介
  3. 超短時間型(作用時間6時間以内)
  4. 短時間型(作用時間12時間以内)
  5. 中間型(作用時間24時間以内)
  6. 長時間型(作用時間30時間以内)

患者様が安心して薬を飲めるような情報提供を

我々薬剤師の仕事は多くの薬について勉強し患者様が安心して薬を飲めるような情報提供をしていくことで、それによって1人でも多くの方が悩みから解放されることを目標としています。

 

国民の約20%が慢性的な不眠症に悩んでいるというデータがあります。加えてさらに15%が日中に眠気を感じているといいます。そのデータからわかるように、日本人の30%~40%の割合で睡眠に対して悩みを持っており、十分な睡眠を確保できていない方が多くいらっしゃいます。

 

私の働いている薬局でも結構な割合で睡眠導入剤の処方箋を受けることが多いため、睡眠導入剤についての解説の需要を感じ、記事にさせていただきました。是非最後までお付き合いいただき、疑問や悩みを少しでも解消する参考になればと思います。

作用時間別睡眠導入剤の紹介

【作用時間別睡眠導入剤の紹介】

 

現在睡眠導入剤として各医薬品メーカーから販売されている薬は20種類程度あります。薬の分類の仕方は様々ありますが今回は「成分の特徴」と「作用時時間の長さ(効いている時間)」で種類別に分けてそれぞれの特徴について解説します。

 

○ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系

 

ベンゾジアゼピン(BZDとよく略されるので以下略します)とは、成分の化学構造上の呼び名でベンゼン環とジアゼピン環がくっついた構造であることからこのような呼び方をします。あくまで構造上の違いなので「非」がついても効果に違いはありません。

 

人間の体の中には「受容体」と言って化学物質が信号を受け入れるポイントが多数あります。BZD系、非BZD系の薬はベンゾジアゼピン受容体というポイントに働きかけ、結びつくことで脳内の神経に抑制的に働くGABA(ギャバ)という物質の作用を強め、興奮を抑えることで不安や緊張を和らげ寝つきを良くし、睡眠を持続させる働きがあります。

超短時間型(作用時間6時間以内)

以下、成分名(商品名)の表記です。

 

・超短時間型(作用時間6時間以内)

 

薬の作用時間を考えていく上で欠かせないのが「半減期」という考え方です。半減期とは薬が体内で50%の濃度になるまでの時間のことを言います。例えば半減期が2時間の薬であれば、薬を飲んだ瞬間が体内の濃度100%とすると、薬が50%の濃度に減るまでの時間が2時間ということです。さらに2時間経って計4時間経つと50%の50%、すなわち濃度は25%になります。薬というのは体内で濃度が半分に減っていく時間を考慮して作用時間が評価されます。

 

言い方を変えると、半減期が短い薬は体内からすぐに無くなっていくため効き目が短い薬と言えますし、逆に半減期が長いとそれだけ体内に留まるので、じっくりと長く効くということになります。

 

超短時間型の薬は半減期が短く、服用するとすぐに効果が出始め、割と早い段階で体内から喪失していくので「寝つきは悪いが一旦眠りに入ると朝まで眠ることができる」タイプの方に適しています。

 

①トリアゾラム(ハルシオン):BZD系

効果発現までは10~15分とかなり早いので布団に入る直前の服用が必要です。半減期は2~4時間なので翌朝まで眠気が残ることもほとんどありません。

 

②ゾピクロン(アモバン):非BZD系

 

効果発現までは15~30分で半減期は4時間です。スッと効いてスッと抜けていくので翌朝への影響は低く入眠障害には適しています。

 

③エスゾピクロン(ルネスタ):非BZD系

 

ゾピクロンの改良版のイメージの成分です。半減期は5時間でゾピクロン同様に素早く効いてくれるので入眠障害の改善には適しています。

 

④ゾルピデム(マイスリー):非BZD系

 

効果発現時間は15分~30分、半減期は2時間とかなり短いです。様々な年代の方に使用されている印象を受けます。

短時間型(作用時間12時間以内)

・短時間型(作用時間12時間以内)

 

超短時間型ほど効き目の切れ味は良くないですが、服用後早い段階で効果が現れ、超短時間型同様入眠障害を改善してくれます。作用時間の短い薬は一過性の不眠にも効くので、毎日常用しなくても寝つきの悪い日のみ飲むという頓服でも効果が出ます。作用時間が短い分翌朝への影響も少なく、多くの方に使用されている薬です。

 

①エチゾラム(デパス):BZD系

 

効果発現時間は30~60分で半減期は6時間で睡眠改善以外にも不安感を和らげてくれる働きもあるので、悩みなどを抱えていて不眠に陥っている方にも効果が出やすいです。

 

②ブロチゾラム(レンドルミン):BZD系

 

効果発現時間は15~30分で半減期は7時間です。連用しても体内に薬が蓄積しにくく、眠気が残ることは少ないので高齢者でも使用しやすい薬です。

 

③リルマザホン(リスミー):BZD系

 

作用発現時間は30~60分、半減期は10時間で他の薬同様十分な効果を発揮します。

 

④ロルメタゼパム(エバミール、ロラメット):BZD系

 

効果発現時間は15~30分で半減期は10時間で、1回の代謝(人間の体に備わっている、薬を体から除去しようとする働きのこと)で大部分が排泄されるので体内に残りにくく、高齢者でも使いやすい薬です。

中間型(作用時間24時間以内)

・中間型(作用時間24時間以内)

今までの2種類よりも作用時間が長くじっくりと効いていくタイプの薬です。眠りについてから翌朝起きるまでになんども目が覚めるタイプ(中途覚醒)や起きる予定の時刻の数時間前に目が覚めてしまうタイプ(早朝覚醒)の方に有効です。作用時間が長い分、翌朝まで眠気が残っていることも少なくありません。

 

①ニメタゼパム(エリミン):BZD系

 

効果発現時間は15~30分ですが半減期は24時間程度と長めです。日中の不安感を抑える効果もきたいいできます。

 

②フルニトラゼパム(サイレース):BZD系

 

効果発現時間は30分、半減期は24時間です。不安感や緊張感を抑えてリラックスさせ自然に近い入眠を促します。

 

 

③ニトラゼパム(ネルボン、ベンザリン):BZD系

 

効果発現時間は15~45分で、半減期も28時間と長いので寝つきが悪い人には不向きであり、途中で目が覚めてしまうような方に適した薬です。

 

④エスタゾラム(ユーロジン):BZD系

 

効果発現時間は15~30分で半減期は24時間です。じっくりと効き、日中の不安感の抑制にも効果が期待できる薬です。

長時間型(作用時間30時間以内)

超時間作用型に分類される薬は中途覚醒や早朝覚醒、または十分な時間寝たはずなのに深く眠った感覚が得られないタイプ(熟眠障害)の方にも効果があります。半減期もかなり長いため簡単には体内から薬が代謝されず、翌朝や日中の眠気につながる可能性も高いです。

 

①フルラゼパム(ダルメート、ベノジール):BZD系

 

効果発現時間は15分ですが、半減期は65時間とかなり長いです。翌朝の眠気やふらつきが出る可能性が高くなるので注意が必要です。

 

②ハロキサゾラム(ソメリン):BZD系

 

効果発現時間は30~40分、半減期は85時間で紹介した薬の中では一番じっくりと効いてくるようなイメージの薬です。半減期は約3~4日なので症状がかなり強い人にも有効です。

 

③クアゼパム(ドラール):BZD系

 

効果発現時間は15~30分で半減期は36時間です。他の薬剤同様じっくり効いてくるのですが、食べ物が胃の中にあると薬の代謝が遅れ効果が跳ね上がってしまうという薬なので、服用する場合はかならず空腹時に飲むようにしましょう。

 

○バルビツール酸系

 

BZD系よりも古い歴史を持つ睡眠導入剤です。効果も高いのですが耐性や依存性がBZD系よりも早いタイミングで出来てしまい、大量服用すると呼吸抑制をもたらし危険性が上がってしまうため、BZD系が開発されてからは安全性の高いBZD系での治療が主流になりました。現在では使用は少なく、急性の症状でかつ短期間で改善可能とみられる場合にのみ使用されるケースが多いです。

 

①ペントバルビタールカルシウム(ラボナ)

 

短時間型に位置します。使用頻度が減っているため、この薬の処方はほとんど目にする機会がありません。

 

②アモバルビタール(イソミタール)

 

中間型の薬です。催眠効果は高いですが処方頻度が減っているために目にする機会もなく、服用している方も少ないと思います。

 

③フェノバルビタール(フェノバール)

 

長時間型で、痙攣を抑える効果もあるため、てんかんの症状を抑えるために処方される場合があります。

 

○メラトニン受容体作動薬

 

脳の中央部にある松果体(しょうかたい)から分泌される睡眠と覚醒のリズムを整えるホルモンである「メラトニン」を分泌し睡眠を促します。メラトニンの受容体に作用することで脳と体の状態を覚醒から睡眠に切り替えて夜の睡眠を維持させようとする薬です。

 

①ラメルテオン(ロゼレム)

 

食事と一緒に服用すると効果が弱くなってしまう可能性があるため、空腹時に服用するようにしましょう。また、この薬と一緒に飲んではいけない組み合わせの薬も存在します。他の薬を飲んでいる方は医師や薬剤師に確認してから服用するようにしましょう。

 

○オレキシン受容体拮抗薬

 

オレキシンは脳の視床下部(ししょうかぶ)で生成される神経ペプチドと呼ばれるタンパク質で覚醒の維持に重要な働きがあります。受容体に拮抗することでオレキシンの働きを弱め、覚醒作用を抑えることで脳の状態を睡眠に切り替えていき睡眠を持続させようとする薬です。

 

①スボレキサント(ベルソムラ)

 

ラメルテオン同様、食事の影響を受けやすいいので空腹時に服用するようにしましょう。またこの薬も飲み合わせの悪い薬があるので注意が必要です。

 

②レンボレキサント(デエビゴ)

 

スボレキサントの進化版のイメージです。最近発売になった新薬扱いの薬です。働き方はスボレキサントと同じですがスボレキサントと一緒に飲めなかった薬が一緒に飲めるようになったことがこの薬のメリットと言えます。世に出たばかりの薬なので十分な使用データがないですが今後の不眠症治療を担う薬になるのではないでしょうか。

 

今回の記事で睡眠導入剤について何か知ることができた、疑問を解消することができたなど少しでも影響を受けてくださる方が増えれば幸いです。

この記事を書いた人

SLEEP BASE MAGAZINE 編集部

編集長の安田 信達です。「快眠器具」を開発研究しています。趣味は「運動」です。筋トレにはまっています。自分自身の体験も活かしながら「睡眠」と「運動」の関係を日々研究することに励んでいます。


副編集長の安田 明道です。眠りがいかに大切なものかをご理解頂くと共に、睡眠に悩む方々に”楽しい眠り”をご提供させていただきます。

SLEEPBASE MAGAZINEが、読者様の睡眠を豊かにすることにお役にたてたら幸いです。
編集部一同 https://sleepbase.jp

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